「IRサプリ」

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ミフィッドに後押しされて

大学を卒業以来金融機関で働いてきて、この先もこの業界で働き続けると思っていた。そんな私が「自分の仕事(証券会社のコーポレートアクセス)が無くなるかもしれない」と思ったのが2018年に欧州で始まるミフィッドという規制である。

「これは大変なことになったね。私たち失職するかも」とロンドンのコーポレートアクセスチームと電話で話したのが2014年。それから4年の猶予期間を経て2018年1月3日からの発効となる。究極の「相対(アイタイ)ビジネス」時代の始まり。上場会社と投資家の関係が本質的なものに回帰する大きな潮目に居るのを実感する。

混じり気のない「海外機関投資家の意思を日本企業に伝えたい」と思った私はミフィッドに後押しされるように法人を設立することになった。

このブログでは最新の市場動向と、ダイレクトアクセスにまつわる様々な現場の話をお伝えしていきたい。地道に続けることでIR担当者のお悩みにさりげなく効く「読むサプリ」となることを願って。

 

最近の市場関係者の動向

さて、ミフィッドと言えば「欧州の規制なので日本は関係ないのでは?」とよく聞かれる。確かに外国人株主とのコンタクトがなければ当面は大きな影響を感じないだろう。しかしミフィッドは機関投資家(運用者)と証券会社にかかる規制である。彼らの行動が大きく変容し、証券会社を経由しない上場企業へのダイレクトアクセスが増えるとみられている。逆にアクセスが減少するケースも考えられる。一部のヘッジファンドはミフィッド免許を返上し、スイスの年金基金はアクティブ運用からパッシブ運用へと舵を切った。ミフィッドにまつわる過去数カ月間の市場関係者の動きには枚挙にいとまがない。
チューダーとブレバン、MiFID免許返上-新たな規制の影響回避へ- Bloomberg
原題:Tudor, Brevan Howard Drop MiFID Licenses to Opt Out of New Rules(抜粋)

そんな中米証券取引委員会(SEC)が動いた。米国の証券会社が欧州の顧客向けサービス費用を分離しても異議を唱えない、としたのだ。加えて米国ロードショウの際にはおなじみのミューチュアルファンドにも免責を与えると伝えられている。一方で欧州以外の機関投資家(運用者)に対しては今まで通りということで現在はダブルスタンダードの様相である。ところが、罰則規定はないのにもかかわらず米国大手機関投資家のブラックロックやJPモルガンなどはグローバル拠点でミフィッド基準を導入すると当局に報告しており、他社もこれに追随の動きを見せている。グローバル規模の大きな流れの変化が少しずつ見えてきた。
MiFID2でリサーチ料金分離してもSEC異議唱えず-関係者 – Bloomberg
原題:Wall Street Is Said Poised to Get a Key SEC Reprieve Over MiFID(抜粋)

 

IR担当者の「つながる力」

日本企業のIR担当者もこれらの動きと無関係ではいられない状況にある。日本時間の夕方には海外の外国人投資家から英語で電話がかかってくる、なんてことが日常になる日は遠くないだろう。そしてIR担当者ひとりひとりがグローバル投資家に「つながる力」が必要になりそうだ。ミフィッドをリスクと見るか。それともこの変化をチャンスと捉え自ら発信する企業になれるかどうか。IR担当者の役割はこれまでに増して大きい。

(続く)